ジャポニスムふたたび (25)
「清さ」を含む日本人の美意識 日本画家 森谷明子
百人一首で知られる「風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける」は、上賀茂神社の「夏越の祓」の神事を歌ったものであるが、上半期の最終日である6月30日は、日本全国の神社で「夏越の祓」が行われる。 「祓えたまい浄めたまへ」と唱えながら小さな子どもが茅の輪くぐりをする様は何とも愛らしく、まさに初夏を代表する風物詩である。 大晦日の「年越の祓」とあわせ、半期に一度は心身の大掃除をしようという古くからのこの習慣は、日本人がいかに綺麗好きな民族かを象徴している。この神事の興味深い点とは、「自分でも自覚できていない、知らず知らずの内に犯したであろう罪穢れ」に対して行うことである。清浄に対する神経質なまでの潔癖さである。 昨今の除菌ブームは「バイ菌が付いているかもしれない」と先へ先へと除菌スプレーを撒くのであるが、目に付く前に先へ先へと浄める習慣は、実は日本の美意識に欠かせない要素である。たとえば、茶道具は汚れて無くてもまず浄め、神社仏閣では落ち葉が無くても朝な夕なと掃き清め、年末の大掃除では穴はなくとも障子の張り替え、である。 美の定義とは時代や民族によって少しずつ異なるものであるが、日本人の美の定義に「清らかさ」が加えられたのは平安以降のことである。日本人にとって「清さ」を欠く美は、もはや美ではない。さらにその清さとは、見た目だけでなく心の領域にまで及ぶのが、日本美の特徴のひとつでもある。 昨今の大人社会を覗けば、我が身の不正は早め早めに隠蔽し、相手の落ち度は執拗に暴く。そんな世の中とは縁遠く、「気付かぬうちに罪を犯したかも知れない」と頭を垂れ輪をくぐり、浄めを求める夏越の祓は、なんとも長閑で慎ましい。次世代に伝えていきたい神道行事のひとつである。
by akikomoriya
| 2017-06-21 18:18
| ジャポニスムふたたび
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