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ジャポニスムふたたび『言霊が幸いをもたらす日本』

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1月8日 静岡新聞朝刊です♬

ジャポニスムふたたび『言霊が幸いをもたらす日本』        森谷明子
               
 新たしき 年のはじめの 初春の 今日降る雪の いや重け吉事 
万葉集に収められた、新年を寿ぐ大伴家持の歌である。 
中国、ギリシャ、メソポタミアなど世界には多くの古典詩編が残されているが、日本の和歌がそれらと大きく異なる点は、言葉を神聖視した「言霊」信仰の有無であろう。
 万葉集の中では我が国のことを「言霊の幸わう国」としているが、これは言霊の力によって助けられ幸いがもたらされる国、という意味である。その一方で、「言挙げせぬ国」とも言い、言葉を畏れ、むやみに発することを慎んだ。
言葉を慎重に扱いつつも、その霊力を最大限に引き出すためには、だらだらとした長文ではなく、凝縮された言葉の結晶が必要となる。それが和歌であった。
 さらに、国家に幸いをもたらす神事としての和歌は、単に目の前にある現実や心情を詠みあげるのではなく、理想的な未来や、本来あるべく好ましい姿が、言葉の霊力によって顕現されるよう願いが込められる。天皇はもちろんのこと地方に赴任した役人が、着任してまずすべきことは、あれこれと問題点をあげつらうことではなく、あらん限りの言葉を尽くして国や土地を褒め称え、「国見の歌」や「国褒めの歌」を歌うことであった。
 こうした神事としての和歌は、現在の天皇にも引き継がれている。国内外の御公務のようにその都度報道されることはなくとも、年間通して20回ほどある祭祀に加え、「和歌を詠む」ことは、歴代天皇の大切な任務であり続け、今日に至っている。
 物事の初めに、あるいは一年の初めに、もっといえば一日の始まりに、心を鎮め、言葉を選び、最もめでたく力強い言霊を響かせ歌を歌う。そんな習慣が古き日本にはあったのだと思う。
 今年もまたさらなる吉事が、我が国そして世界全体に顕現されますように。


by akikomoriya | 2018-01-08 19:09 | ジャポニスムふたたび
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