10月16日 静岡新聞朝刊です♬
風景画をめぐる異文化交流 日本画家 森谷明子
モネ、マネ、ルノワール、ゴッホ、ホイッスラー、ロートレック・・・19世紀の巨匠達に与えた日本の影響はあまりに大きい。特に珍重されたのは北斎の「富嶽三十六景」や、広重の「東海道五十三次」など浮世絵の風景画であった。 しかしその北斎や広重が、実はすでに西洋絵画の技法を学んでいた、という事実はあまり知られていない。彼らは蘭学の資料として国内に持ち込まれていた西洋絵画を熱心に研究し、「遠近法」を学んでいたのである。鎖国下といえど、異文化の交流はしたたかに為されていたのである。 西洋の遠近法の習得によって表現が拡大し、浮世絵の風景画はそれ以前のものとは比べものにならないくらい作品としての完成度を上げた。奥行きをもって雄大に広がる画面や、遥か彼方にある遠景の富士山と手前にある日常品などの近景を対比させるなど、ユニークな構成も生まれる。それはまさに西洋の合理性と日本の情緒や遊び心が見事に融合した瞬間であった。こうして生まれた大胆な画面構成を誇る北斎や広重らの風景描写は、開国後西洋に渡り、ジャポニスムとなって印象派をはじめとする西洋画壇に多大な影響を与えた。 さて、西洋と日本の風景画の交流は、そこでは終わらなかった。印象派が謳歌するパリに、今度は黒田清輝など油彩画の習得を志す明治の画学生らが渡り、彼らが体得した印象派の技法は我が国における油彩画の礎となる。 与え、与えられしながら世界の芸術文化は膨らんでゆく。こうした異文化交流が豊かに繰り返されていくのも、国家間の平和と友好があってこその賜物なのである。浮世絵の名を世界に知らしめたパリ万博から150年。この先の150年も、そしてその先も、日本と世界は穏やかに文化交流を重ねていけたらと願っている。
by akikomoriya
| 2017-10-17 20:59
| ジャポニスムふたたび
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