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ジャポニスムふたたび 30話

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11月20日(月)静岡新聞朝刊です♬

ジャポニスムふたたび


目に見えない優しさと配慮          日本画家 森谷明子


日本の間仕切りとは、セキュリティーがずさんである。
屏風も襖も衝立もちょっと覗けば中は丸見え、障子、簾は透け放題、欄間は音が漏れ放題である。個人情報の保護が厳しく問われる時代、日本家屋におけるそれはあまりにも管理がずさんなのである。
その一方で、このずさんさが実は喜びも産む。それは壁やドアでがっちりと間仕切りされないがゆえに、広々とした空間を共に味わうことである。個を守るために仕切られた空間では決して味わうことのない開放感を、日本人は上手に味わってきた。
たとえば、外国人旅行者にとって温泉とは、大変興味深い一方で嫌悪感をもたれやすい。ここでは個人情報の保護などといったものは皆無である。しかしながら、狭い浴室では味わえない開放感を楽しむことができる。そのための暗黙の了解とは、見えていてもわざわざ見ない、聞こえていてもあえて耳をそばだてない、である。見えない聞こえないふりをする配慮がなければ温泉を楽しむことはできない。
開国後間もない日本を訪れた外国人が、庭で行水する母子に驚いたというのだが、わざわざ垣根を覗く通行人もいない代わりに、行水する母子も覗かれるとは思っていないのである。個人情報の保護に神経質になるほど狡猾な犯罪は増加し、社会全体が漠然とした不安感と警戒心を抱くようになった昨今から見れば、かつての日本の面影とは、なんと温かく優しさに満ちていることか。
日本文化の醍醐味は、そういった相互の無言の配慮があってこそ味わうことができる。互いに目には見えない結界を引きながら、上手に個を維持し、同時に広い空間の共有を楽しんでいるのである。人と人、あるいは人と自然が明確な境界を引かれることなくゆるやかに共生し、それを楽しむ。優しくおおらかな文化である。

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by akikomoriya | 2017-11-20 22:22 | ジャポニスムふたたび
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