感謝がこもる日本食の価値
日本食が海外で注目されるようになり、国内でも日本食に対する価値が高まっている。素材のうまみを生かし、研ぎ澄まされた味覚と技に支えられる日本食は、世界に誇る文化である。 また食に関する作法も日本独自のものがある。日本の食事は「いただきます」の礼にはじまり「ご馳走様でした」の感謝に終わる。しかし、海外ではこういった習慣は必ずしも一般的ではなく、出されたものを何も言わずに食べ始める場面にでくわすと、逆に驚かされる。 日本では八百万の神といって、山川草木すべてが神聖であり神宿る存在とみなす。したがって、食とはその神聖さを人間の体に取り込む儀式でもある。食と神事は日本では切り離すことはできず、全国各地で行われる地域ごとのお祭りは、豊穣祈願の春祭りに、収穫に対する感謝の秋祭りである。 またアイヌ語では箸を「パスイ」といい、これが日本語の「箸」の語源であると考えられているが、その「パスイ」は単なる箸ではなく、神や先祖に供物をささげる際に使用する神具である。つまり箸とは神と人との仲介として神聖な道具であるのだ。 実際日本の食事の場面では、箸に関する決め事が多い。箸で人や物を指さない、箸を立てない、箸で食べ物を受け渡さない、箸で音を鳴らさない、などの数えきれないほどの決まり事を、日本人は当たり前のように親から子へと伝え、それに沿って食事を行う。またひと頃前の食卓とは、祝い事などの晴れの場以外は、家族一同揃って静かに頂くことを良しとされていた。 こうした日本の食文化は、とりもなおさず、食という行為が、神なる命を頂く神聖な儀式の延長にあり、それを共に分かち合いながら日一日と生かさせて頂く営みに対する感謝の表れである。 日本食を伝えるとき、そうした日本人の価値観も含めて伝えることができたらと思う。
by akikomoriya
| 2019-11-05 18:50
| ジャポニスムふたたび
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