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   ジャポニスムふたたび 58話                                 

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ひっそりと、桜が咲き始めました。今年の春は静かですね。

3月23日静岡新聞朝刊です。

「対象を愛して絵を描くこと」

世の中に桜の絵は多いけれど、菊池芳文(18621918年)の作品ほど桜の佇まいを描き出している絵はないと思う。菊池芳文の代表作「小雨ふる吉野」は、例年桜の時期には東京国立近代美術館で公開される。六曲一双の屏風の前に立つと、春雨がそぼ降る吉野の山の山桜が、目前に広がるような心地すらする。

 絵を描くときに一番大事なことは、その対象をとことん好きになることだと思う。桜なら桜を心底好きになり、話しかけながら、夢を見るような気持ちで描くのがよいと思う。誰かが描いた絵に良し悪しを付けるのは、決して良い趣味ではないのだが、強いて言えば、好きになった対象とどこまでひとつになれるかが、絵の良し悪しを決めると思う。

そういう意味で、菊池芳文は間違いなく、桜に魅せられ桜をこよなく愛していたと思う。「愛でる」という個人的な感情を通し、我を忘れ時を忘れて見入る時、桜が我が身に乗り移り、我を通して桜が現れるのである。 

桜を描くのは難しい。どんなに綺麗に描けていても桜には見えない絵もあるし、確かに桜なのだけど、生きているようには感じられないものもある。

ところで、先日、袋井市の可睡斎に行った折、珍しく気に入った桜の絵があった。襖に描かれた白い八重桜にぐるり囲まれ、しばし花見をしているような心地よさを感じた。帰宅してからその襖絵を描いた絵師である「山口 玲熈 (やまぐち れいき)」を調べてみると、先述の菊池芳文の弟子であった。可睡斎の襖には、同じく玲熈の筆による、鶴や藤などの絵もあったが、作者は桜を最も好んでいたように思われた。描かれた八重桜は、確かに生きているように感じられる。

菊池芳文と山口玲熈、子弟の間で桜を巡り、どんな会話があったのだろうと思いを馳せる。


by akikomoriya | 2020-03-24 18:47 | ジャポニスムふたたび
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