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ジャポニスムふたたび 64話

やっと涼しくなってきまして、暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったものです。

今月はマスクの話題にしてみました。


ジャポニスムふたたび

抑圧の下でも明るく美的に            森谷明子

江戸の町人は、美意識の高い人々であった。

日本人の染色技術の高さを表す言葉に「四十八茶百(しじゅうはっちゃひゃく)(ねずみ)」という例えがあるが、江戸の町人は、茶色や鼠色という一見地味な色調を、丁寧に染め分け、こざっぱりと「(いき)」に着こなす。もっとも彼らはもともと地味な色を好んでいたわけではない。太平の世と言われた江戸時代も、後半は度々の飢饉で財政難となり、幕府は庶民に対して「奢侈(しゃし)禁止令」を出し贅沢を禁じた。高価な布地や華やかな色は禁止され、麻や木綿などの布を、地味な色で染めるよりほかなかった。

そうはいっても、おしゃれ好きな江戸町民がしけた(つら)をして茶色や鼠色を着ているわけにはいかない。色は地味でも種類を増やせば美が生まれる。海老茶(えびちゃ)、栗茶、(うぐいす)茶、灰茶、枇杷茶…。利休(りきゅう)(ねずみ)(むらさき)(ねずみ)、桜鼠、(うめ)(ねずみ)、銀鼠…。微妙な色味の違いを、上手に染め分け、それを着こなし、茶色や鼠色を「貧相」ではなく「粋」に高めて楽しんだ。どれほど押さえつけられても、明るく軽やかに突き上げるのが日本の大衆文化の強みである。

 さて、ウィルスの感染予防には欠かせないマスクだが、鬱陶しさは否めない。その一方で、早い時期から手作り品が出回り、洒落たレースに、縮緬や浴衣生地など、様々な布地、絵柄が楽しまれている。いまやちょっとした手土産には最適なグッズである。こうしたおしゃれマスクは、おそらくは感染症終息後もひとつの文化として残るのではないだろうか。

 江戸の粋と掛けてマスクと解く、その心は?「どちらも抑圧の下でおしゃれを楽しむ」。

 不安、不快、不自由…抑圧された環境の元でも、しけた面ではいられないのが日本人である。少しでも楽しみを見つけ、明るく美的に生きていきたいものである。

 

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by akikomoriya | 2020-09-22 22:26 | ジャポニスムふたたび
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