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ジャポニスムふたたび84話「精神的な高み尊ぶ軸 今こそ」

7月4日静岡新聞朝刊です。ジャポニスムふたたび84話
『精神的な高み尊ぶ軸 今こそ』
 初代駐日領事ハリスが下田に来航したのは、1856年のことだった。下田の玉泉寺に領事館を開いたその日の日記は興味深い。「疑いもなく新しい時代が始まる。あえて問う、日本の真の幸福となるだろうか」
 ハリスばかりではなく、当時日本を訪れた多くの人々が、新しい文明を受け入れつつある日本の行く末を案じていた。あれから150年、そうした人々の予見は、当たらずとも遠からずである。
明治の開国以来、勤勉と忍耐を勲章に邁進し続け、豊かさを手にしたはずの日本は、現在どうも元気がない。世界160か国を対象に行われる幸福度調査は昨年も54位と低く、さらに自殺率は先進国の中ではロシアに次いで2位、特に子どもの自殺率はトップ。若者の自己肯定感の低さは社会問題となっている。
 明治の文明開化では、あらゆる日本的なものを「劣ったもの」として脱ぎ捨てるところから始まった。そこに大きなボタンの掛け違いがあったのではないだろうか。
日本語は英語に劣り、伝統的絵画は洋画に劣り、着物は洋服に劣り、医学も教育も社会システムその他すべてにおいて、「日本は劣っている」という概念から、日本の近代化が幕開けた。
しかしながら、日本文化の中枢には、物質的な豊かさに先行する、「精神的な高み」を尊ぶ文化が脈々と流れている。縄文以来ブレることのないその軸は、様々な外来文化の流入にも押し流されることなく、むしろそれらをしたたかに吸収し膨らめてきた。モノや金銭よりも、精神的な高みを尊ぶ日本文化は、持続可能な発展を求める現在の地球社会において、大いに注目を集めている。
 日本独自の思考を学び直し、日本文化の有用性を確認することで、「自己肯定感」ならぬ「自国肯定感」を高めたい。それが、現在の日本のみならず、世界全体を、真の幸福に近づける有効な手立てであると筆者は思っている。
イラストのようです
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by akikomoriya | 2022-07-06 07:03 | ジャポニスムふたたび
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