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ジャポニスムふたたび 85話

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8月2日静岡新聞朝刊です!


江戸社会はSDGs最先端

江戸の暮らしがSDGsの最先端であったという話をよく耳にするようになった。世界最高の識字率を誇っていたという寺子屋制度や、致命的な環境破壊や森林の乱伐が無かったこと、紙くずひとつおろそかにしないリサイクル、リユーズ能力の高さなど、SDGsが掲げる17のゴールのうちのいくつかを、すでに150年前にクリアしていたと言える。

特に、屎尿を有料で回収し、肥料として販売していたシステムは興味深い。現在の金銭価値に置き換えると、年間40億円の一大産業であったといい、屎尿すらも無駄なく循環させる江戸の智恵には驚かされる。

一方、中世ヨーロッパでは、屎尿や汚物は川や路上の溝に捨てたため、河川は汚濁し、市街地の路上は悪臭が立ち込めていたという。当時のパリやロンドンの人口をはるかにしのぐ、江戸100万人都市において、秩序ある循環社会が実現していたことは、今一度振り返って考える価値がある。

日本人が汚物の処理に神経を使っていた理由は、もちろん清潔好きな民族性もあるだろうが、山川草木すべてが神である日本人にとって、人間の生活空間の「外」とも言える山や川や海が、神のおわす場所だったからではないかと思われる。そこに汚物を捨てるということは、神々の神域を汚すことになるから、不吉で禍々しい行為だったにちがいない。

今や、海洋は人類の巨大なゴミ箱と化し、その中には日本製のペットボトルやプラスチックもある。不要なものを「外」に捨てるという感覚は、本来日本人が好むやり方ではなかったはずだ。水にも土にも還らないプラスチック製品の扱い方を、日本人の経験知で少しずつでも解決したいものだ。

未知の取り組みに挑むような感覚を与えるSDGsだが、すでに実践されていた日本の古き良き知恵を振り返りながら、日本流のSDGsを発信できたらと願っている。


by akikomoriya | 2022-08-02 21:10 | ジャポニスムふたたび
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